【対談】従来のマーケティング戦略は通用しない。今求められる戦略・人材・技術とは。
山崎雄太 氏
株式会社Minato 代表取締役
新卒で野村證券株式会社に入社、ベンチャー企業を経て、2013年 Facebook Japan入社
200社以上の広告主にFacebook広告の導入を支援。3億円の広告費を20億円まで拡大し、アジアNo.1の営業成績を残す。シンガポールに異動後、パートナーマネージャー就任。広告代理店との協業事業の推進及び、東南アジアの新規パートナーの開拓。
2015年Netflix Japan入社デジタルマーケティング責任者として、Netflixで数々のデジタルマーケティングのキャンペーンを行う。2018年10月 株式会社Minato設立。

田内広平
PROJECT GROUP株式会社 代表取締役
2012年、大学卒業と同時に株式会社Project L.C.(現・PROJECT GROUP株式会社)を創業。ORBIS、品川美容外科クリニック、ビックカメラといった大手クライアントを中心にデータマーケティング/R&Dを提供。グロースハック集団として業界トップクラスの実績を持つ。ベストベンチャー100を2017/2018で連続受賞。

CPC/CPAの高騰による広告市場へのマイナス影響

田内広平と山崎雄太氏
【田内】今回の対談では『今求められているマーケティング戦略・人材・技術』を題材に、元Netflix Japanのデジタルマーケティング責任者であり、現在は株式会社Minatoの代表である山崎雄太さんをお招きしました。本日はよろしくお願いします。

【山崎】よろしくお願いします。

【田内】現在のマーケティング市場の状況を見て、言いたいことが結構あるんですけど、中でも従来の「CPAやROASを軸とした戦略」はもう時代遅れだという意見を主張したいんですよ。

というのも、クロスマーケティング(※1)が主流化していること。薬事法改正やITP問題(※2)といったマーケティングにおける制約が登場したこと。こういった流れにあるにも関わらず、いまだに従来の戦略で定期通販をやっている企業なんかを見ると「これは駄目だな」って思っちゃいます。

【山崎】そうですね。当たり前ですが、やり方が変わったのであれば戦略も組み立て直すというのが、本来の企業の在り方だと思います。

【田内】CPC/CPAは依然として高騰していますし、各プラットフォーム・メディア側もCPC設定を下げようとはしない。なんなら、さらに上がっていくような気配すら感じます。

【山崎】実際に上がっていますからね。加えて、ITP問題によって、広告のターゲット精度が曖昧になった点も大きいと思います。

【田内】広告関連の企業はどこもITP問題にぶつかっていますよね。

【山崎】商材・業種によっては、SNS広告のCPAは約2倍に膨れ上がっていますし、ターゲット精度が落ちれば必然的に無駄打ち回数も増える。そうなるとパフォーマンスの悪化にも繋がりやすいので結構問題ですね。

こういった状況下でどう動くべきかなんですけど、単純に「CPAが高いから」を理由にFacebook・Instagram・Twitterといった“ITPの影響を受けている媒体”の予算を削減すればよいという短絡的な考え方も難しいじゃないですか。

【田内】そうですね。ITP問題でターゲット精度が落ちたとはいえ、Instagramなんてトップクラスのリーチ量を誇るプラットフォームじゃないですか。どう考えても爆発的なリーチ量が取れますからね。

【山崎】そうなんですよね。アクティブユーザーが多い、プラットフォームに広告を出さないと意味が無いわけです。

【田内】デジタル広告は「獲得」がわかりやすく見える化されているので「広告=獲得」みたいなイメージが定着していますけど、本来であれば「リーチ」も広告目的の一つですからね。規制によってInstagramが刈り取りに向かなくなったとしても、単純にリーチ目的でやれば良いというだけの話。もちろん、戦略なきリーチ獲得には意味はないですけど。

【山崎】交通広告に予算が割かれるのも「人に知ってもらうこと」の重要性を物語っていますよね。一定の認知がないと商品は売れづらいので「獲得」と「リーチ」のあんばいは結構重要なポイントだと思います。

※1 クロスマーケティング:タイプの異なる手法や業界を組み合わせるマーケティング方法のこと。
※2 ITP問題:Intelligent Tracking Preventionの略。プライバシー保護の観点から、Webにおけるcookie情報を制限する機能のこと。

アンチCPA主義であるNetflixが重視していた指標

山崎雄太氏
【田内】NetflixはCPA主義じゃないと思うんですけど、どんな指標を重視していたんですか?

【山崎】それで言うとシンプルで「新規の顧客数」と「アクティブユーザー数」を含む独自指標がKPIに置かれていて、それらをいかに伸ばすかというところを重要視していました。その時々に「ユーザーが何を見ているのか」はすごく重要な指標で、パーソナライズ精度の向上はもちろん、広告戦略にも直結したりするんですよ。

例えば、イカゲームの広告がCPAで5,000円、全裸監督の広告がCPAで2,000円だとします。数値上では全裸監督の方が良いとしても、今が旬で大人気となっているイカゲームの方が見られる可能性が数倍高い。アクティブユーザーに転換する可能性も高いとして、イカゲームに予算を振り切るという感じなんですよ。

SVODは、CPA的には優れていても、その作品経由で訪れた人が登録後は何も見てくれない。瞬間的にその作品が気になって、とりあえず登録しただけみたいなことは結構ある話なんですよ。重要なのはLTVであって、CPAではないんですよね。

【田内】面白いですね。イカゲームなんかは韓国ドラマにハマる理由になりえる作品ですし、Netflixにはその他多数の韓国ドラマもあるので、新規顧客がアクティブユーザーに変わっていくイメージがつきます。

【山崎】時流を適切に理解して、顧客を掴む。そこから、しっかりLTVを伸ばすにはどうすべきかを考え、施策を実行する。基本的なことですけど、マーケターとして大切な仕事だとおもいます。

企業成長に繋がらない非本質的な戦略・KPIは害悪

田内広平
【田内】Netflixがそうなのか、外資企業がそうなのか分からないですけど、内資企業は基本的に「マーケティング」と「プロダクト」の間に謎の境界線が引かれている。これが一番不可解なんですよ。

シンプルに考えると、商品開発から販促まで全てがマーケティング活動じゃないですか。それにも関わらず「分断する意味とは」みたいな疑問があります。

【山崎】チーム間の分断、あるあるですよね。これはおそらく経営陣の責任かと思っていて、適切なKPIと目標をチームに対して渡せていないと思うんですよね。だから横串で動く意義が見いだせないケースがあると思います。

【田内】経営陣から出てるKPIがそれこそ「売上目標」とかで、それを現場の責任者が頑張って具体的なKPIに落とし込んでる感じはありますね。

【山崎】そうですね。それが結果としてCPAやCVがKPIになっている所以で、縦割りで動く理由付けになってしまうかなと。それと、本来KPIは事業計画に沿って作るべきものですけど、とりあえずCPAやCVといった分かりやすい数字をKPIに置く。結果的に現場はノルマの達成だけをするみたいな感じになってしまっている。そうなるとメンバーはそれを達成するために頑張るわけですけど、事業成長には繋がっていない可能性があるんですよ。

僕たちのクライアントで言うと、上層部と連携できる企業であれば「KPIから変えましょう」であったり、「こういった指標が大事なんじゃないですか」という話が通るので、それらがちゃんとメンバーに落ちれば、横の連携も上手くいくケースがあり、結果として、事業成長に繋がりやすい。

ただ一般的なケースだと、上層部の人たちが「じゃあ、コンサルをお願いします」と一言。そこからはコンサルをメンバーに紹介して、現場の担当者と話を進めるようなケースだと「目標はこれで決まっています」「これを達成しないと僕らの評価に響くんです」みたいなことになっていく。 さらにいうと、現場もいきなりコンサル紹介されても面白くない。その結果、コンサルも結果をださないといけなくなるので、「その目標をいかに達成するか」といった内容になって、本質的では無くなっている場合が往々にしてあるんですよ。

【田内】あるあるですね。

【山崎】結局のところコンサルを使うにしても、全ては“組織問題を解決できるかどうか”に掛かっている気がします。言い換えれば、プロジェクトを成功をさせるには上の人たちのコミットも非常に重要だと思います。

【田内】個人的には経営陣がマーケティング情報を持っていなさすぎで、経営・戦略にそれらを絡められないことが問題だと思いますけどね。

経営陣のリテラシーが低すぎるが故に、現場の担当者に委ねようとする。でも現場にそんな経営から事業戦略・マーケティングの最新情報まで持ってる高リテラシーな人材がいるわけもなく、KPIのレベルは低いまま。仮にそういった知識を持つ人がいたとして、日本特有の企業文化によってボトムアップはされていかないんですよね。

言うならば、どの企業も同じところを延々とぐるぐる回っているような感じですよ。だから「市場で突き抜けるには何が必要なのか」みたいな話題は大好きだし、みんな飛び付くわけです。でも、マーケティングを科学しまくって一気に伸びた会社なんて、日本にはほとんどいないと思ってます。

【山崎】確かにそうかもしれないですね。

染みつく組織の縦割り文化の弊害

田内広平と山崎雄太氏
【山崎】マーケティング以前に、プロダクトそのものに問題があるケースとかも比較的多いじゃないですか。そのことをマーケターもプロダクト側もしっかりと認識して「マーケティングよりも、まずはプロダクトを改善していこう」と切り替えられる会社は強いなと思うんですよ。

競合・環境・定量・定性などの各種調査を通して、ターゲットとしている市場のユーザーが求めるニーズと現行のプロダクトが提供している体験の過不足を見定めていくと、あるべきプロダクト像の話しになることが多いんですよね

その事実を真摯に受け止めて「改善しよう」となるケースは、後々上手くいっている会社が多い印象があります。一方で本質的な問題がそこに眠っているのに「これはマーケティングチームの課題じゃないんで」と言って、横の連携ができないケースを見ると「残念だな」と思うこともやはりあったりするんですよね。

【田内】残念というか、僕なら「いやいや、これはおかしいでしょ」とクライアントとやりあいますけどね。それこそ強気で上に電話しますし、嫌がられますけど本気で直そうと思ったらそうなるじゃないですか。

【山崎】そうなんですよね。

でも本当は上手くいってない時こそ、冷静に全体を俯瞰する必要があるわけじゃないですか。優先して改善すべきボトルネックはマーケティングなのか、プロダクトなのか、またはセールスサイドやカスタマーサポートなのかと……。ただロール毎でチームが別れている組織が多いので、実際進めるのが難しくはあるのですが。

【田内】これって僕たちの立ち位置的には結構ジレンマですよね。結局「マーケティング以外に問題がある」と提案してしまうと、「じゃあ今はマーケティングの改善ではないのでは」と発注が止まるじゃないですか。

【山崎】止まりますね。それでも相談の3割ぐらいは「マーケティングの問題ではない」というケースなんですよ。製品によってはセールス強化の方が良い場合もあったりするじゃないですか。そういう時は冷静に「営業で売った方がいいですよ」と僕は言いますね。

【田内】僕もそのスタンスなんですけど、それこそ例えば「プロダクト改善の方がインパクトが大きいよね」となった時に、先方の予算やリソースが再分配される可能性があるんですよ。

【山崎】予算の計上先が変わるとか、優先順位が変わるという話ですよね。確かにちょっとジレンマですよね。

【田内】それでも本質的な提案をするわけですけど、その提案自体が評価されることはほぼ無い。というのも提案内容を評価するような文化が日本には全然ないんですよね。

そこがまずレベルが低いところで、これではレベルの高い見解を率直に述べてくれる人が減ってしまうんですよ。こちらとしては自社の売上は度外視で、本質的な見解を出して最善を尽くそうと思って提案しているのに、それ自体が評価されないのはやはりガッカリしますね。

それこそ日本と海外のCMO比率の問題もあると思っていて、海外企業の40~50%はCMOがいる一方で、日本は0.4%とか。驚異的にいなさすぎなんですよ。営利企業としてコンフリクトしてる合理的見解を提示しているのに、その誠意に答えてくれるところが意外と少ないのも、そもそも理解されてないんじゃないからと思ったりもします。

【山崎】確かにそうですね。こちらは誠意的な提案をしているのに、創業して間もない、強豪のほうが他社事例が豊富という理由だけで、競合に負けたことが2−3回ほどありましたね。

日本企業と海外企業のリスクに対する違い

田内広平と山崎雄太氏
【田内】NetflixやFacebookに所属しているマーケターは、やっぱりレベルが高いんですか。

【山崎】そうですね。レベルは高いと思います。優秀な人が非常に多かった印象です。それと、外資系特有の部分かもしれないですけど、意見を言わないとか、考えを述べないということは「バリューを出していない」ということでマイナス評価に繋がるので、自分の考えを主張する人が多かったです。

一方、日本の会社で働いている人たちは、オペレーションエクセレントな人が多い印象です。「ミスをしたらいけない」「正確に物事をこなさないといけない」みたいな要素が強くて、上から言われないとやれないけど、言われたことは100%こなす人たちが多いと思っているんですね。

逆に外資系は少し適当な人もいるんですけど、「自分のアイデアを実行に移したい」「自分の発案で会社やプロダクトにバリューを出したい」みたいな要素が強かったりして、意外にベンチャーマインドの方が多いんですよね。とりあえず、まずは実践するみたいな。

【田内】日本人と違って主体性が強いんですね。

【山崎】主体性も強いですし、会社全体として個々人の考えを取り入れる姿勢もありますね。基本的にリスクがあったとしても、インパクトを残せるんだったらやろうみたいなことは、全員のメンタリティーとして備わっている部分があると思います。なので自然と連携ができているんですよ。

【田内】それが理想的な在り方ですよね。

【山崎】例えば、Netflixは、「全裸監督のビニ本」を渋谷の自販機で配るマーケティングをやってましたが、全裸監督はR18のコンテンツだし、作品の中のものを忠実に渋谷で再現するので結構リスクが高いと思うんです。普通の会社なら「SNSで批判が来るかもしれない」「実際に視聴した人からクレームが来るかもしれない」みたいな感じでリスクを取らないじゃないですか。でもNetflixは“会社としてリターンのためにリスクを取る”という文化が形成されているから、そういうことも実行に移されるんですよ。

全裸監督のビニ本自販機
出典:businessinsider.jp

【田内】バズるということもある程度読めますし、そうなった時の批判なんて正直どうでもいいじゃないですか。

【山崎】そうなんですよ。バズった時は批判よりも、プロモーション効果の方が大きい。やはりリスクがあっても、利益があると思うなら実行すべきなんですよ。

リスクを取りたくない人たちが組織に集まりすぎると、リスク回避に傾倒して大きな事を実行できなくなってしまう。それだけで本来あるべき収益機会を逃してしまっている可能性もあると思いますね。せめてリスクとリターンを金額で対比するなどはした方が良いと思いますね。

【田内】そうですね。日本人の場合は「質を上げる」という点は国民性的にも強いと思うんですけど、そこの一点に全集中されても正直しょうがいなと思っていたりします。

【山崎】あとは「リスクとリターン」の考えにかなり敏感で、短期的な損失をすごく大ごとに捉えてしまう傾向がありますよね。

【田内】本当にそうなんですよね。実際に「でも、こういうリスクあるじゃないですか」と突っ込まれることが多いですからね。

例えば、とある業界の大手クライアントの話で、部長・担当役員がGOサインを出している施策があったんですけど、現場が物凄く嫌がったんですよ。

ただ現場から指摘されてるリスクが小さすぎるし、発生確率もかなり低い。対してリターンとしては、月次で約3,000万円の粗利が生まれる可能性が高い。やる以外の選択肢は無いわけですけど、あまりにも話が進まない。

最終的に先方の社長に僕から直で話を通して実行する方向になりましたけど、内部のカルチャーとしては保守的ですよね。僕に言わせれば「気後れするのは分かるけど、あなた達がいること自体が事業成長のリスクじゃん」みたいに思いますけどね。

リスクとリターン

田内広平と山崎雄太氏
【田内】そもそも「リスクとリターン」自体を、リスクとしか捉えていないような印象はありますね。

【山崎】それはあるかもしれないですね。例えば「CPAが合わないから縮小しましょう」みたいなケースは多いじゃないですか。「予算も下げなきゃね」みたいな話によくなりますけど、それって実はリスクですからね。要は「CPAを下げるために、予算を下げて、獲得件数が減って、このまま事業計画が未達になっていいんですか」という話ですよ。

リスク回避の人たちというのは「CPAが悪い」「それでは予算を減らしましょう」「ターゲティングを絞りましょう」みたいな話に持っていきがちですけど、結果的に獲得件数は減って、代理店も事業者もじり貧になってしまう。なので、目先のリスク回避ばかりに傾倒するのも実は危険だったりするんですよね。

【田内】分かりやすい数字が無い「リーチ目的の広告」とかもそうですよね。「費用対効果が見えないから辞めよう」みたいな安易な考えで停めた途端、自然流入の数も減っていきますからね。

【山崎】本当にそうなんですよね。より多くのお客さんを呼び込んで、ちゃんと商品を買ってもらう。その際に最低でも「どういったメディア戦略が正しいのか」ということは熟考しなければいけないなと思いますね。

アーリーアダプター(※3)の人たちはすぐに新商品に飛び付いてくれますけど、次は興味のない人たちにも買ってもらわないといけない。事業成長が進むにつれて、その確率はどんどん増えていくので今までと同じことを繰り返していても意味がない。その分、新規顧客を得るための投資を、これまでとは別の切り口で確保することが重要になってくると思いますね。

【田内】会社がある程度の事業成長をすると保守的になって、挑戦に対して気後れする傾向にあると思うんですよね。

例えば、新しい戦略を提案した際に「いや、これまでもこの戦略で上手くやってきたので」みたいなことを言われるんですけど、昔と今では市場の状況が全然違うわけですよ。

おそらく戦略を再構築して、もう一度リスクを背負って事業成長に臨むこと自体が怖いんだと思うんですけど「その状態を継続することが最もリスクである」ということには気付いていないんですかね。

【山崎】そうなんですよね。今までのやり方で5億円が10億円になったり、10億円が50億円になったとします。でも次の100億円にするとか、200億円にするということはステージそのものが変わる話ですからね。

【田内】そもそもの話として、失敗した際の要因分析はある程度するくせに、成功した際の要因分析はどこもすごく弱いんですよ。「5億円を10億円にした時に、本当に同じやり方を繰り返しただけなんですか」みたいな。本当に同じやり方を繰り返していたとして「どの変数ポイントがブレなかったから成立したのか」までは追っていないんですよ。

【山崎】確かに悪かった点を改善するケースは多いですけど、何が良かったかを見極めて、より伸ばすにはどうするかという議論は全体的に足りない気がしますね。

※3 アーリーアダプター:イノベーター理論における5グループの中の1つ。 流行に敏感で自ら情報収集を行い判断する層。

他社の成功事例を真似ても基本的に通用しない

山崎雄太氏
【山崎】「他社の成功事例を真似てみましょう」みたいな話も挙がると思うんですけど、僕はすごく懐疑的だと思っているんですよ。

僕自身の経験から言っても、他社の成功事例をまるっとそのまま横展開させて上手くいった例は少ないですし、社内状況やリソース、バジェットなどの全てが他社と違うのに同じことが通用するとは限らないわけですよ。だからこそ自社の成功事例をしっかり分析して、それを更にどうグロースさせるかという点こそが本質的だと思いますね。

【田内】そうですね。美容整形外科の大手2社にそれぞれ入ってるんですけど、一方の企業で成功した施策を、もう一方の企業に転用したことがあるんですよ。でも、やっぱり同じような結果にはなりませんでしたからね。

【山崎】やはり、そうですよね。自社製品を気に入っている人、他社製品を気に入っている人、それぞれにインタビュー調査を行ってみると、ターゲット層が全然違っている場合が結構ありますからね。

【田内】そうですよね。

【山崎】他社は主要顧客が20代の女性で、こちらは30代の女性のように主要顧客層をみても結構違っているケースが多いですよ。ということは、それぞれライフステージも違うわけで当てるべき施策も変わってきますからね。

【田内】そこから事業拡大を狙う際に、相手のターゲット層をどのように食うかがポイントですよね。現状ではニーズに当てはまっていないかもしれないが、将来的には刈り取らなければならない。だって事業成長し続けることは資本主義の基本ルールじゃないですか。

【山崎】まさしく。少し話それますが、定期モデルに関わる内容も同じような話ですよね。

定期モデルは継続収益でやった方が良いとは思いつつ、定期購入を良しとしないお客さんは世の中に多い。そういう人たちを今後の成長に向けて獲得していくのかも議論になりますよね。

定期モデルを闇雲に続けたところでどこかで頭打ちになるケースもあるはずなんですよ。事業成長させるなら「購入までの動機付けフロー」をちゃんと構築していく必要性があるなと最近すごく感じますね。

【田内】そうですね。某業界のトップメーカーなんかは単品購入と定期購入で、それぞれ年間利益額を算出したら、「単品購入でスタートした顧客の方が年間利益は高い」という結果だったんですよ。

単品購入のユーザーが定期購入に切り替えることも結構ありましたし、もっと言うと「定期購入LPから購入したユーザーのLTV」と「公式オンラインショップでユーザーに単品・定期を選択させた場合のLTV」では、後者の方が倍ぐらいのLTVがありましたね。

だから「定期購入をゴリ押す意味とは」って話なんですよ。ちゃんとユーザーに選択肢を与える方がCPAも数倍許容できるし、そっちの方が普通に良くないですかって思いますけどね。

【山崎】実際にお客さんに商品を気に入ってもらって、最終的に定期に切り替えてもらえれば企業的にも良いわけですからね。

【田内】そうなんですよ。これが出来いないのは「正しいLTVの算出方法」や「適切な期間設定がわからない」というレベルの低い理由だと思うんですよね。

セールスの重要性は上がってきている

田内広平と山崎雄太氏
【山崎】あと、事業成長には「地上戦的なセールス」もすごく重要な要素だと思うんですよ。

僕はデジタルで稼げる領域には限度があると思っていて、そこからスケールアップするにはオフライン領域への介入も必要だと思っているんですよ。例えば、ECであれば卸ですよね。

もちろん商品力が高ければ「弊社の店舗に置かせてください」みたいなオファーもあるかもしれないですけど、やはり一定は営業によるプッシュも必要だと思うんですよ。

【田内】それはありますね。それこそ今の市場を見ても、オフライン店舗に商品を上手いこと卸している通販業者は順調に成長してる印象ありますね。一般消費者の目や手に触れる確率も上がりますし、事業成長におけるファクトとして、そこはもう不可避なんじゃないですかね。

【山崎】そうなんですよね。あと、SaaSなどのBtoB系企業さんから「デジタルマーケティングに力を入れて獲得件数を向上させたい」みたいな相談をいただくことが増えてきてるんですが、状況に応じてはデジタルマーケティングよりセールスを強化した方が収益は伸びるケースがあったりするんですよ。

【田内】普通にありえる話だと思いますよ。僕もBtoBはPRならオンライン、獲得ならオフラインだと思ってます。

【山崎】実際、うちもそんなに自社用のマーケティングはしてないんですよ。

デジタル広告から一定のリードは入ってくるんですけど、そもそもの獲得単価が高すぎてLTVが合わない可能性が高い。あと自分たちが求めている顧客以外からもオファーが来てしまうので、それらに対応するためのリソースが必要になる。これは少数精鋭だとかなりきつい。

こういった背景があるので、うちがやるのは電話営業でコミュニケーションを取りにいくとか、トップアプローチだと手紙を送るとか、そういったものですね。これもセールスマーケティングの中に入るのかもしれないですけど費用対効果は高いと思います。

【田内】それで言うと、僕らもずっとデジタル広告で集客していなかったんですけど、実験的にセミナー参加者をデジタル広告で募ってみたんですよ。

セミナー応募のCPAは約2万円で数値は上々なんですけど、問題はユーザー属性でしたね。うちの商材は完全にBtoB向けかつ高単価なんですけど、個人の勉強目的が多いという結果だったんですよ。

やはりデジタル広告で刈り取るのはあくまで個人であって、企業を刈り取るのはコスパが悪いと思いましたね。なのでデジタル広告は自社のPR活動に駆使するようにして、基本的には地上戦のセールスですね。その方が明らかに効率が良いですから。

【山崎】僕もそう思います。結局、最後は営業力が物を言う気がしますね。

【田内】例えば、本当に微妙なサービスを導入していたクライアントがいたんですけど、なぜ導入したのか聞いてみたら「営業から聞いた時は良いと思ったから」みたいなことだったんですよ。それを聞いた時は「結局は営業力なんだよなぁ」と思いました(笑)

【山崎】それは結構ありますね。特に同じような営業会社なんかは、割とミーティング相手が「信頼できそうかどうか」が見極めが重要ポイントだったりするんですよね。

【田内】あるあるですね。信用できそうかなんて、ものすごく主観的な話なんですけど。

【山崎】そうなんですよ。ロジックではないんですよ。特に大きい企業の方がその傾向が強い気がしますね。

【田内】それはあるでしょうね。

【山崎】でも日本でビジネスをする限り、郷に入れば郷に従わなければいけませんからね。歯がゆいところです。

【田内】もはや「郷に入っては郷に従え」という文化自体が、成長を止める要因でしかないと思いますけどね。

現市場における広告代理店の価値は暴落した

山崎雄太氏
【田内】デジタル広告もアルゴリズムが優秀になって、注力ポイントは「戦略」と「クリエイティブ」だけになってきていると思うんですよ。そういう状況下での広告代理店についてどう思いますか。

【山崎】おっしゃる通り、戦略とクリエイティブは非常に重要です。僕らだとクライアントの代わりに代理店のディレクションをやったりもするんですけど、デキる代理店とそうでない代理店で一番違いがでてくるのは、レポーティングと分析品質なんですよね。

微妙な代理店はレポーティングの粒度が粗い。逆にデキる代理店はしっかりレポーティングするし、そこから行った施策の結果をしっかりクライアントに報告するんですよね。
でもデキる代理店は全体の25%ぐらいしかいないのが実情で、残りはレポーティングを含めて、ただオペレーションだけをやっているというパターンが多いですね。

【田内】オペレーションって言っても初期設定を済ませたら、後はほぼ自動じゃないですか。言い方は悪いですけど放置というか。

【山崎】そうですね。1回走ってしまえば、ほぼ自動なんですよね。ただ実際にはレバレッジが効かせられるポイントがいくつかあるので、施策をこまめに実施して良し悪しを定点観測しながらPDCAがちゃんと回るかどうかですね。

【田内】そのデータの読み取り自体が下手くそな会社とかは、やっぱりレバレッジが効かないということですよね。

【山崎】そうですね。あとは「誰が運用するか」という部分も本当に大事だと思います。

広告の初期設定など、「作業」にあたる部分はある程度の簡略化がされているし、誰もが出来るようになっているんですよ。重要なのは、その作業をやって、施策を実装した上で「今どういう状況なのか」「今後どうすべきか」といった“示唆を出せる人”がいるかどうかですからね。

【田内】確かに「作業」なんて、それこそ社内でやれば良いわけですもんね。

【山崎】そうですね。あとはこれに付随して、人材採用の時も「運用はもちろん、示唆が出せるかどうか」を見極められるかがすごく重要かもしれないですね。

深刻化する人材問題

田内広平
【田内】正直な話、日本企業のレベルが低い問題の根幹には人材問題があると思いますね。

世間的に「マーケター」と言われる人たち。それこそクライアントの担当者がそうだったりしますけど、「何を考えているんだ」と思う人の方が圧倒数で、レベルが高いと思う人材は1%以下ですからね。

【山崎】マーケティング品質はチームの総合値だと思っていて、自社の状況を加味して「どういうケイパビリティの人材を拡充し、どのロールに配置するべきか」がすごく重要だと思うんですよ。

例えば、広告運用者としてはスキル的に物足りない人材でもクリエイティブに強みを持っていればクリエイティブ制作の方で活躍すれば良いわけです。

経歴の良い人たちは戦略思考が強かったり、具体的な戦略プランを持っていたりする。でもそれを実行する能力が無かったりもするので、お互いの能力を補完できるチームになっているかが重要だと思いますね。

【田内】経歴にもレベルがあると思うんですよ。サイバーエージェントの「リクルート担当チームで責任者をやっていました」みたいな人は保証付きなので良いとして、「某大手広告代理店で運用をしていました」みたいな人だと、戦略なんかは基本的に描けないと思うんですよ。

前職での案件の規模がすごく大きくて、しかも主担当だったならまだマシですよ。ハードな折衝経験は積んでるだろうし、求められることがかなりテクニカルなので。でも「現場オペレーターでした」みたいなオチも結構あって、その辺の代理店で普通に働いている運用者とレベルはあまり変わらないですからね。

【山崎】なるほど。

【田内】繰り返しになるんですけど、結局これも経営陣のリテラシーが低いことが問題だと思うんですよ。「マーケターを教育する」という工程自体がまともに出来ないのはもちろん、教育したところで「その人のレベルが高いかどうか」を会社は判断できないわけですからね。

【山崎】それで言うと、日本屈指の大手企業には一定数の優良人材がいるのは事実だと思うんですよ。ただ難しいのが、その人たちが考える戦略はすごく大規模だし、膨大な予算があってできる戦略だったりするんですよね。

でも膨大な予算が用意されているパターンなんてごく一部なのが実情で、多くの企業が必要としているのは10億円を20億円に、20億円を50億円に、そして最終的に100億円に伸ばす人材。制約がたくさんある状況下でも、数値を伸ばすことが出来る人材が足りていないと思っているんですよね。

【田内】そうですね。それはありますね。

【山崎】それは単純に理論だけでは上手くいかないし、実働も伴わなくてはいけない。両輪できる人が世の中にすごく少ないと思いますね。

【田内】いないですね。

【山崎】大手企業のマーケターの人たちはマーケティングのいろはも教わっていますし、基礎能力も非常に高いです。でも彼らが持っているノウハウ・経験・戦略は大規模予算ありきの話であって、彼らが10億円や20億円規模で活躍できるイメージはそんなに湧かないんですよね。

【田内】それは思いますね。それで言うと山崎さんも前職は大規模予算の仕事がメインだったわけじゃないですか。やはり中規模だと全然違いますか。

【山崎】全然違いますね。やはり使えるお金がないから、結果を出すのに最初はすごく苦労しましたよ。

【田内】なるほど、やっぱりそうなんですね。

CMOチームの結成

田内広平と山崎雄太氏
【田内】やっぱり、まず経営陣が変わらなければ日本全体のボトムアップに繋がらないという部分が結論にあると思うんですよ。それこそ事業成長を加味した戦略やKPIを組み立てられないのであれば、お金を払ってでもCMOチームを結成すべきだと思うんですよね。

CMO候補の人材を1人雇って、更にカウンターパートを外部から2~3人雇う。そのメンバーをCMOチームとして編成して、事業戦略や具体的なKPIをディスカッションで組み立てていく。こういう「マーケティング戦略ボードメンバー」みたいなチームを企業が取り入れていく方が良いんじゃないかと少し思っています。

【山崎】それは確かにいいですね。「デジタル化」とか「DX」とか言う前に、まずそれを推進する組織を固めるというのはすごく大事なことだと思います。

【田内】CMOクラスの能力を持つ人間が複数人いれば、大抵の穴は見えるし、インパクトのある戦略アイディアも議論で出てくるわけじゃないですか。やっぱり自分たちで出せないのであれば、そこは力を借りるべきだと思いますけどね。

【山崎】ちなみに、どのぐらいの企業の規模感、売上のところができそうですか。

【田内】単月売上が1億円程度あるなら、やった方がいいと思いますよ。

有識者たちが議論を繰り返して、戦略を徹底的に叩く。そして本当に優先度の高いものだけを決めるという仕組みですね。やっぱり自分たちで一からアセットを積み上げるのも正直難しい話ですし、合理的ではあると思うんですよね。

【山崎】確かに合理的ですね。

【田内】プロを呼んだ方が早いですからね。そこから施策立案からテスト運用まで自社で行って、ノウハウを少しずつ吸収していけば良いわけですよ。最終的には外注に丸投げした場合のコストの何分の1とかになるんじゃないですかね。

【山崎】ちょっと話が逸れるかもしれないですけど、「コスト削減」などは社内でも話が通りやすいじゃないですか。でも施策を考えてテストするみたいな、「テスト費用の捻出」に対する概念が日本は少ないと思うんですよね。

【田内】予算編成の文化によりますけど、日本は部署ごとに予算編成する傾向にあるじゃないですか。僕からすれば「どれも会社の資本なんだから散らす意味とは」みたいに思いますけどね。

だって普通に考えて、その時一番優先度が高いものに予算配分すべきじゃないですか。「PR予算に〇億円、デジマ予算に〇億円、開発には〇円です」みたいに予算編成したせいで、動くべき時に動けないとか「何これ?」と思いますね。

【山崎】確かに。僕がいた会社などは部署ごとにバジェットはあったんですけど、横の連携がしっかりあったので「この領域はこっちで持つ」とか「この領域はちょっと手伝ってくれないか」みたいなことが、ちゃんと行われていましたけどね。

まあ、身も蓋もない話になっちゃいますけど「やっぱり組織文化によってしまうよね」ということですよね。

【田内】「マーケティングを本気でやろう」と思うなら、組織のつくり直しから入った方がいいですね。ぶっちゃけ「まだ昭和に生きているんですか」みたいな企業は多かったりしますからね。やっぱり組織レベル、文化レベルでの変革が必要だと思いますよ。

【山崎】本当にそうですね。「マーケティングは組織」みたいな話がありますけど、時代に合わせて組織も変化しないと厳しいと改めて感じますね。