第2次安倍政権の大きな目玉となったアベノミクスによる金融緩和により、ベンチャー企業の資金供給額も増えていますが、その資金調達方法も増えて複雑化しています。それぞれの資金調達方法にメリット、デメリットが存在し、これから起業しようとしている人にとっては頭を悩ませるポイントともなっています。
一体どのような資金調達方法がいいのか悩んでいる人のために、ベンチャー企業の資金調達方法を徹底的に調査していきます。
目次
ベンチャー企業(スタートアップ)の資金調達方法は大きく分けて4つ
- 出資を受ける
- 融資を受ける
- 補助金を受ける
- 助成金を受ける
スタートアップも含めたベンチャー企業の資金調達方法は、大きく分けて上記の4つに分けられます。
まずは混同しやすい出資と融資です。似ている言葉ではありますが全く意味合いが変わり、「出資=事業が成功することを期待してお金を出すこと」、「融資=お金を必要としている人に条件付きでお金を貸す」という違いがあります。
補助金は経済産業省もしくは地方自治体から、事業促進を目的として交付される現金の総称を指します。
助成金は厚生労働省もしくは地方自治体が管轄している制度であり、新たな雇用先を増やす、雇用者を守るという目的の元に作られた制度のことを指します。
その他に、ここ最近でYouTuberも利用して大きな話題となった、インターネットを通じて情報を発信して不特定多数の人に資金を募るクラウドファンディングもあります。
返済義務がない資金調達
- 投資家からの出資
- 国が運営する補助金
- 国が運営する助成金
ベンチャー企業の資金調達方法の中には、返済義務のない上記3つの資金調達方法があります。
一般的に「お金を借りる」という行為には金利、そして返済義務があるというのが当たり前ではありますが、資金調達方法によっては返済義務がないものも存在するのです。
「返済義務がない」という言葉は魅力的に聞こえますが、メリットもあればデメリットも存在します。
また返済義務のない資金調達方法の中でもそれぞれにメリットとデメリットがあり、そこには大きなリスクも存在するので、資金調達方法を検討する際にはしっかりと理解しておく必要があります。
投資家からの出資
最もベンチャー企業に向いているとも言われている資金調達方法が投資家からの出資です。
2001年~2004年にかけて放送され、社会現象ともなったテレビ番組「マネーの虎」を思い浮かべてもらうと分かりやすいかもしれません。
投資家からの出資は「金利、返済義務がない」ということに加え、「出資されたという実績」によって信用がつくので、次の資金調達も楽になるというメリットがあります。
ですが自社株を購入することによって出資してもらうという形になるので、出資者が株主として経営に参加し、株の保有率によっては自社の経営権を奪われてしまうというリスクも伴います。
国が運営する補助金
補助金は経済産業省が管轄しており、返済義務がないので会社を運営していく上での資金的な大きなアドバンテージとなります。
ですが申請にはいくつかの書類を提出し審査、場合によっては面接をして、社会貢献や将来性など総合的に判断され、ようやく受け取ることができます。
書類を揃えて審査、面接、審査結果を待つという流れになるので、時間と労力もかかります。また倍率も非常に高く、ハードルが高いというのも注意が必要です。
そして「補助金」という名前の通り、「会社の企業に当たっての費用を補助」してくれるものなので後払いになります。始めに自己資金や資金的な余裕がないと厳しいというのもデメリットに挙げられます。
国が運営する助成金
助成金は厚生労働省が管轄しており、こちらも補助金と同じく返済義務がないので、受けることができれば資金繰りが非常に楽になります。
助成金にも審査がありますが、助成金は厚生労働省の管轄ということから分かる通り、「雇用者の労働環境、職業安定を整える」という目的なので、審査は社会保険に加入しているか、雇用条件などの雇用面を厳しくチェックされます。
また申請から支給まで1年以上のかかるので、その間の資金繰りにも気を使う必要があります。
ですが「助成金を受けられる=雇用者に優しい企業」というお墨付きを国から貰えるので、社会的に大きな信用を得ることもできます。
返済義務がある資金調達
返済義務のある資金調達には、「金融機関からの融資」があります。
返済義務のない資金調達は「社会貢献や雇用者の労働環境整備など」が目的だったのに対し、金融機関からの融資は「利益」が目的となるため返済義務があるだけでなく金利も付きます。
目が行きがちな返済義務の有無だけでなく、他のメリット、デメリットも全く異なってきますし、返済義務がない代わりに負うリスクがないというメリットもあります。
しっかりと金融機関からの融資のメリット、デメリットも理解し、2つの資金調達方法をしっかり比較し、合った資金調達方法を選ぶようにしてください。
金融機関からの融資
金融機関からの融資には返済義務があり、融資された金額に金利を加えて返済する義務があります。
「融資=利益目的」となるため、融資にあたってその会社が倒産せずに利益をしっかり出せるかという返済能力を判断し、融資するかどうか決まります。
実績が少ないベンチャー企業には融資を渋る金融機関が多いですが、政府金融機関の日本政策金融公庫はベンチャー企業への融資率が高く、融資を受けるのであれば日本政策金融公庫が現実的と言えます。
補助金、助成金は申請から支給まで1年以上かかりますが、融資はかなりスピーディーに資金調達でき、日本政策金融公庫であれば融資決定まで最短2週間となっています。
出資による資金調達方法
- ベンチャーキャピタル(VC)
- エンジェル投資家(個人投資家)
ベンチャー企業の資金調達に出資を選ぶ場合、その出資先は上記2つとなります。
ベンチャー企業が出資を選ぶ際のメリットは「返済義務がない」というだけではなく、「利息がない」、「担保や保証人がいらない」ということも挙げられます。
ですがメリットだけでなく、出資は基本的に株を買ってもらうという形になるので、経営に自由が制限されたり、出資者が株主となれば株主の力で新たな代表取締役を選任して会社を乗っ取られるということも想定できます。
一概に出資と言っても出資元によりメリットとデメリットも異なるので、違いをしっかりと理解しておいてください。
ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受ける
ベンチャーキャタピルとは、「ベンチャー企業に向けて融資を行い、ハイリターンの利益を求める集団」のことです。
将来有望なベンチャー企業の株を購入し出資、そして一部上場後に株を売ったり譲渡することで利益を得ることを目的としているので、ベンチャー企業への出資にかなり積極的です。
出資を受けられる条件はもちろん「将来的に大きな利益を生む可能性が高い」だけでなく、「一部上場を目指している」というのも条件となってきます。
ですから、かなりしっかりとした事業計画を立てなければ、門前払いとなります。
出資額に関しては双方の話し合いで決定しますが、確実性が求められる代わりに出資額も1億円から10億円と非常に高いのも魅力的と言えます。
また、投資した会社の成功が自社の利益に繋がることから、出資後のフォローの姿勢もメリットです。
エンジェル投資家(個人投資家)から出資を受ける
ベンチャーキャタピルが集団、企業だったのに対し、エンジェル投資家は個人投資家です。
事業を成功したりで金銭的に余裕ができた人がエンジェル投資家へなるケースが多く、ベンチャーキャタピルが利益を最優先させているのに対し、エンジェル投資家は起業する人を応援したいという気持ちを持っている人が多いのも特徴です。
なので出資を求める人の人間性や面白いビジネスプランなど、ベンチャーキャタピルや他の資金調達方法とは異なるベクトルで融資を決定することもあります。
融資額の目安は数百万円から一千万円ほどと低く、また出資にあたり個人での関係を構築していく必要があるので、相性も非常に重要になってきます。
補助金による資金調達方法
- 創業補助金
- 事業承継補助金
- ものづくり補助金
ベンチャー企業が受けられる主な補助金は、上記3つとなっています。
補助金は創業支援、設備投資関係が対象となり、起業することで産業が活性化したり、どれだけ社会貢献できるかというのが大きなポイントとなります。
補助金はいつでも申請できるものではなく、公募期間が決まっているので注意しましょう。募集した政策内容に当てはまっている優秀な提案のみが審査を通過し交付されるので、非常に倍率が高くなっています。
また、支給はかかった費用に対して後払いなので、ある程度の初期資金が必要です。補助される費用は数百万円から数千万円で、支給されればかなり心強いバックアップとなります。
しかし、原則的に補助金は課税対象となる点に注意する必要があります。
創業補助金
創業補助金は地域経済を活性化させる目的の補助金です。
なので創業にあたり地域経済を活性化させる事業計画がなければ、当然認められないものとなっています。
経済だけでなく雇用面でも地域経済に貢献できるであろうベンチャー企業が対象なので、事業計画の事業実施完了までに1名以上を雇用する必要もあります。
支給される金額は創業にかかる補助対象の金額の50%であり、都道府県地域事務局もしくは支援ポータルサイト「ミラサポ」に、公募期間である毎年4月から5月の間に申請が必要です。申請条件である1名以上の雇用者はアルバイトでも可能で、創業補助金の募集日以降に創業することが対象となります。
事業承継補助金
事業承継補助金とは、その名の通り事業継承が対象となる補助金のことです。
事業継承には経営を革新させる、事業そのものを変えるなど様々な理由はありますが、事業継承補助金は事業継承しても雇用枠や取引の増幅によって地域経済に貢献できる企業が対象となります。
なので事業継承するからと言って必ず申請が通るものでもありませんし、しっかりとした事業継承計画も必要となってきます。
また補助率は対象となる費用に対して2/3となっていますが、200万円という上限も設けられています。後継者は3年以上、役員などの役職について職務経験があるなどの条件があるため、合わせて注意が必要です。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」の略であり、生産性を上げる開発や事業を対象にしている補助金です。
元々は大学や企業の研究などが対象だったものが、それが一般の企業にも対象が広がったという形です。主に製造業というイメージもありますが、製造業に限らず広い分野が対象となっています。
ものづくり補助金の上限金額は500万円、1000万円、3000万円と規模によって段階で定められていますが、補助率は対象の費用に対して2/3と一律になっています。
採択率は40%前後と高く、最大10社まで連携して申請ができるというのも大きな特徴と言えます。
助成金による資金調達方法
- キャリアアップ助成金
- 生涯現役起業支援助成金
- トライアル雇用奨励金
ベンチャー企業が受けられる主な助成金は、上記の3つとなっています。
助成金は補助金と同じく「国が管轄する返済義務のない資金調達方法」ではありますが、補助金は「審査が厳しい」のに対し助成金は「条件を満たしているかどうか」が重要となってきます。なのでその助成金の出資条件を満たしていれば支給されます。
ですが助成金は「雇用者の労働環境、条件をよくすることが目的」であるため、社会保険の完備などの雇用面での環境が整っていなければ支給されることはありません。
助成金から受けられる出資の金額に目安は数万円から数十万円が多く、補助金と比べて低いので、ハードルもリターンも補助金より低くなっているのも特徴です。
キャリアアップ助成金
有期契約労働者、パート、アルバイト、派遣社員と言われる非正規労働者を対象とし、非正規労働者のキャリアアップの促進を目的とした助成金です。
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 健康診断制度コース
- 賃金規定等共通化コース
- 諸手当制度共通化コース
- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
各コースの条件を満たし認定されれば受給という流れになります。
キャリアアップ助成金の出資額の目安は1人当たり数万円から数十万円となっています。しっかりとしたキャリアアップの計画を立てなければ、受給条件を満たせないので注意が必要です。
生涯現役起業支援助成金
生涯現役起業支援助成金は40歳以上の中高年者の起業を対象とした助成金です。起業にあたり必要となる雇用に関する費用を助けるというのが目的ですが、この助成金には審査があります。
まずは「雇用創出措置助成分」として、しっかりと事業を継続して続けることができ、生産性を向上させることができるかが条件となります。
また、雇用創出措置助成分を受けたのちに生産性の向上が認められれば、「生産性向上助成分」として別途で助成金を受け取ることができます。
雇用創出措置助成分は企業者が60歳以上で助成率が2/3、上限が200万円で、40歳から59歳だと助成率が1/3、上限が150万円です。
なお、生産性向上助成分は雇用創出措置助成分の1/4となります。
トライアル雇用奨励金
トライアル雇用奨励金とは、その職業に就労経験がない、乏しい雇用者を試行的に雇用することで受けられる助成金です。しっかりと雇用者を見極めることができ、積極的な雇用に結びつける目的があります。
期間は最大で3か月であり、3か月の間に起業が見極め、正式な雇用を目指すという形になりますが、雇用者が就労経験がない、安定した職業に就いていないなどの条件もあります。
トライアル雇用奨励金は一人当たり最大4万円を3か月受け取ることができますが、雇用者が母子家庭、もしくは父子家庭、35歳の場合は最大5万円が上限となります。
ハローワークや職業紹介事業者からの紹介が対象となります。
融資による資金調達方法
- 日本政策金融公庫
- 自治体
ベンチャー企業が融資を受ける方法として、上記2つが挙げられます。
ベンチャー企業が資金調達する上で、最もハードルが高いと思われているのが融資でしょう。確かに利益を最優先する金融機関は実績がないベンチャー企業の融資は消極的ですが、ベンチャー企業に向いた、特化した融資もあります。
融資は返済義務こそありますが、資金調達をスピーディーに行えたり、経営の自由に関する制約も少なく、出資や補助金、助成金にない魅力的なメリットもあります。
ですが利用するにあたっての制限や自己資金の問題などもありますので、合わせて確認してください。
日本政策金融公庫の新創業融資を受ける
ベンチャー企業への貸し渋りが目立つ中、財務省が所轄する日本政策金融公庫の新創業融資は、これからベンチャー企業を企業する人に向けた画期的と言える融資方法です。
新たに創業、もしくは事業開始後に税務申告を2期終えていないベンチャー企業が対象で、他に雇用、地域活性化、勤務経験に関する要件、自己資金の要件をクリアしていることが条件となります。
原則的に担保、保証人は不要で、3000万円の限度額となっているは非常に魅力的と言えます。
また返済期間も資金用途によって異なりますが、最長で据え置き期間を含めて20年に設定されています。
金利は若干高めで、創業資産総額の1/10の自己資金が必要となるので注意が必要です。
自治体の制度融資を受ける
自治体の制度融資とは、各都道府県や市町村の自治体が窓口となり、信用保証協会・金融機関と連携して融資を行う制度のことです。創業前でも申請することができ、比較的審査も通りやすいというメリットがあります。
さらに、原則として担保や保証人は不要で、借入先である金融機関に自治体が金利の一部を支払ってくれるため金利が安いというのも特徴です。
ですが自治体、信用保証協会、金融機関の3つでの審査があるので時間がかかり、申請から融資実行まで2か月以上かかるケースもあり、融資の中で最も遅いと言えます。
その他に、創業資産総額の2/10から5/10という自己資産を確認できないと利用できないというデメリットもあります。
投資ラウンドで変わるベンチャーの資金調達金額
投資ラウンドとは投資家が企業への投資を行う基準となるもので、段階的にステージで分かれています。
まず最初はシードで、この段階はビジネスプランを練り、具体的に想像を膨らませている仮説の状態です。もちろんビジネスモデルが魅力的であれば投資をするという投資家もいますが、投資額も小さくなります。
次にシリーズAですが、この段階はシードにしっかりとした根拠となる数字が付き、起業直後から設立5年ほどの段階を指します。
シリーズBは実際に起業したあと、事業拡大のために資金が必要となる段階を指します。
最後にシリーズCは十分に売り上げを確保し、一人前の企業になるための躍進に多額の資金が必要になる段階です。
シードラウンドの資金調達
これから起業するにあたり、市場調査や事業計画を練っている段階をシードラウンドと言います。企業にあたる最初期であり、まだまだ机上の空論とも言える段階ですが、もちろんビジネスモデルや練られた事業計画書であれば、投資家の目を惹き投資に結びつく可能性があります。
ですがやはりまだ実態がないので投資額は少なく、目安としては百万円から数百万円です。
これから成長する可能性を秘めた企業に安く投資ができるという投資家側のメリットもあるので、シードラウンドへ積極的に、また専門とする投資家も多く存在します。シードラウンドでは、いかに情報、計画が綿密であるかが問われます。
アーリーラウンドの資金調達
起業直後から設立5年ほどがアーリーラウンドですが、まだこの段階では赤字で、いわば企業としての土台作りの時期です。
起業して以降、更に運転資金や設備投資、研究資金などが必要となってくる時期でもあります。出資額の目安は一千万円から数千万円となっています。
アーリーラウンド企業は実際に起業してからの経過などを見ることができ、その将来性なども見極めやすく、また投資額もまだ低いということで、投資家にとっては非常にうま味のある時期でもあります。なのでアーリーラウンドで投資、売却を狙う投資家が多く、出資を受けやすいと言えます。
ベンチャー企業(スタートアップ)の資金調達事例(2018年)
ミツフジ株式会社
世界で唯一となる縫製からクラウドまでワンストップで自社開発、自社生産するベンチャー企業です。銀繊維のAGpossは利用企業が98社にも上り、シェアを拡大しています。調達した資金額は約30億円です。
株式会社エブリー
爆発的ヒットとなった1分ほどにまとまった料理レシピ動画「DELISH KITCHEN」を運営する株式会社エブリー。現在では多くの動画メディアを運営しています。調達した資産額は約20.6億円です。
ワンダープラネット株式会社
パズルとRPGを融合させた新ジャンル・ブッ壊し!ポップ☆RPGを提案するスマホアプリ「クラッシュフィーバー」を開発、リリースしたワンダープラネット株式会社。調達した資産額は約10億円です。
まとめ
ベンチャー企業の資金調達は非常に難しいイメージもありますが、投資だけでなく、最近ではベンチャー企業に向けた融資や補助金、助成金など資金調達方法も豊富に増えています。
それぞれの資金調達方法のメリット、デメリットを確認し、しっかりとそれぞれの特性を把握したうえで、自社に合った方法を選びましょう。